2015年7月16日木曜日

寄稿文『旧世紀エヴァンゲリオン FAKE GENESIS EVANGELION 鋼鉄の宴』 第一章

 みなさんお待ちかね、humihiko30からの寄稿文だよ。
 俺はこいつと昨日学校で会ったが。




第一章


 対潜戦闘中の巡洋艦「大淀」の司令塔で、この船の艦長、碇シンジは、ぼーっとしていた。並の艦長にできることではない。乗組員が一人残らず、この艦長が単なるお飾りであることを承知しており、副艦長を頂点とした臨時の指揮系統が存在し、なおかつそれがうまく機能していて初めて取ることができる行動である。
(本当にここが僕の居場所なのだろうか。)
 本当の自分。それをまだ彼は発見できずにいた。15歳の少年が、そのまま幼形成熟してしまったようなものである。彼はずっと父によって敷かれたレールの上を走ってきただけで、自分では何一つ行動を起こしてはいない。そしてその結果、今、ここにいる。
(そう、僕が今までやってきたこと、そして今やっていることは、僕のことを単なる道具としてしかみていないあいつを憎むことだけだ。)
 実際、空想の中で何度親を殺したかわからない。しかし、それを現実のものとするための行為が伴わない限り、空想がそれ以上のものになることは決してない。その証拠に、彼の父である連合艦隊司令長官碇ゲンドウは、この艦の属する輪陣形の中央に位置する戦艦「大和」から、この艦隊を陣頭指揮しているのである。
 
 自分の息子の胸中も知らずに、碇ゲンドウは将棋を指していた。もっとも、たとえシンジの想いを知っていたとしても、彼は同じように将棋を指していただろう。今の彼にとって、自分の息子にどう思われているかということは、この戦闘の帰趨に比べればあまりにも些細なことだったのだから。
「例の潜水艦はどうなった。」
 と、ゲンドウは将棋の対局相手、加持リョウジ参謀長に尋ねた。
「大淀からの報告によると、重油膜が確認されたため攻撃を打ち切ったとのことです。」「われわれの位置は敵に知られたと見て間違いないだろうな。」
 ゲンドウは加持の言葉に耳を傾ける様子もなくいった。実際、彼にはわかっていたのだ。奴らがそう簡単にやられるはずがないことを。大淀が確認したという重油膜にしても、偽装のために敵潜が燃料の一部を放出したものだろう。
「諜報部からの報告によりますと、敵さんもかなりの大艦隊を派遣しているらしいのですが、我々の索敵線にはまだ引っかかっていません。基地航空隊の脅威を考えなくていいのは助かるのですが。」
 ミッドウェーやジョンストンといった中部太平洋における主要な航空基地がハワイ、モロカイ、オアフの三島を残してことごとく海中に没したため、この海域で陸上機を運用することは事実上不可能になっていた。もちろん、その原因はセカンドインパクトに伴う地殻変動である。
「今は朗報を待つしかないな。ところで、」
 ゲンドウは将棋盤に目を落とし、自分の王将を入玉させてから、
「持将棋だよ。引き分けだ。」
 敵艦隊の位置を知らせる待望の電文がもたらされたのは、彼がその台詞を口にしてから30分ほどたってからだった。

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