2015年8月8日土曜日

寄稿文『旧世紀エヴァンゲリオン FAKE GENESIS EVANGELION 鋼鉄の宴』第二章後半



 「一刻も早く攻撃隊を発進されたし、なお、第一目標は敵新鋭戦艦にすべきと認む」
おれはそう書かれた電文を破り捨てた。米国本土で技術士官をしていたところを二階級特進させられ、突然艦隊の司令官にさせられたあげく、むちゃな命令を乱発されたせいで、おれの怒りは沸点に達していた。

「よろしいのですか。これは要請ではなく、命令ですよ。」
 参謀のズイム中佐が尋ねた。
「知ったことか。もともと指揮系統はめちゃくちゃなんだ。攻撃隊に命令を伝えるのは不可能だ。そういうことにしておけばいい。」
 実際この艦隊の指揮系統はめちゃくちゃだった。おれが<指揮>している国連軍太平洋艦隊は、主力艦(つまり戦艦と航空母艦)を主に米国が、巡洋艦と駆逐艦をソ連が、そして艦載機をイタリア、ドイツ、イギリスがそれぞれ供出しているわけだが、おれが実際に指揮することができるのは、ソ連軍の艦艇、イタリアの戦闘機隊、そしてドイツの爆撃機隊以外の部隊だけなのだ。
 その結果、様々な問題が発生したのだが、ここでは一つの事件を述べるにとどめよう。先ほどの戦闘の際、我々のレーダーは30分以上も前に日本の攻撃隊を発見していたにもかかわらず、なぜか迎撃に発艦した飛行機は、言葉の壁を持たないイギリス人パイロットが乗り組んでいた英独共同開発の試作ジェット戦闘機「トリープフリューゲル」(一機だけこの艦隊に試験的に配備されていたものだが、おれには異世界からきた物体にしか見えなかった)だけだった。それが、おれの指揮下にあった、そった一機の戦闘機だったからだ。そしてその結果、我が艦隊の空母の数は半数になってしまったのだ。
 だがそれも、奴らのわがままにくらべればたいした問題ではない。この作戦には、おれが名目上の指揮官をやっている国連軍太平洋艦隊以外に、やはり各国から供出された12隻の潜水艦からなる艦隊が参加しているのだが、どうやらお偉方が乗り込んでいるらしく、おれの艦隊にまであれこれと指図してくる。おれはなにも将軍が陣頭指揮をとることを否定してるわけじゃない。人の上に立つものが人よりも多く血を流すのは当然のことだ。しかし、たとえそれがどんなに勇敢な司令官の命令であったとしても、おれは航空母艦が海戦の主役となったいま、貴重な攻撃機を時代遅れの戦艦に振り分けることは拒否する。
「少将、敵艦隊の予想位置と我々の艦隊との距離が650マイルをきりました。」
ズイムが言った。
「そろそろ頃合いだな。第1次攻撃隊の発艦準備を始めるように、伝えておいてくれ。」
「イエス、サー」
 勘違いをしまくっている上の連中が考えていることの中で、ただ一つだけ正しいものがあるとすれば、攻撃なくして、防御だけで戦争に勝てるわけはないということだ。歴史をふりかえってみれば、<防衛省>が勝利をおさめたことなどないのだ。この距離まで近づけば、艦載機の航続距離の長さを利用して相手の艦載機の行動半径の外から攻撃隊を発進させるという、日本軍のお家芸であるアウトレンジ作戦も不可能だ――もちろん艦載機と護衛艦がすべてアメリカ製であればこんな苦労はしなくてすんだのだが、このくそいまいましい国際連盟軍とやらが編成された後では、そのような理想的な艦隊を編成することは非常に困難になっていた――彼らに一泡吹かせてやるときがきたのだ。



参考文献(副読本)



『宇宙の戦士』      ロバート・A・ハインライン (),    矢野 (翻訳)   

                        ハヤカワ文庫SF

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